「演劇入門」(平田オリザ)

演劇は「対話」だ!

「演劇入門」(平田オリザ)
 講談社現代新書

演劇が好きで、
素人ながらに学校祭の演劇を担当し、
指導してきました。
ところが3年前に転任した現任校は
学校祭のプログラムに演劇はなく…。
寂しい思いをしています。
本書は私が前任校でどっぷりと
演劇指導にはまっていた頃に
出会った本です。

「演劇入門」とありますが、
実際のところ、
「演劇を始める」「脚本を書く」ための
入門としてはいささか不向きです。
脚本の書き方についての
説明が書かれてあるのですが、
これを読んだだけで
書けるかというと、
難しいでしょう。
あくまでも著者独自の方法であり、
参考にはなりますが、
「入門」にはならないと思います。

などと偉そうなことを
言うつもりはありません。
私の言いたいのは、本書はむしろ
「日本語論」「日本文化論」
「コミュニケーション論」として
貴重な視点を提示している書であり、
その観点で
読むべき本だということです。

「なぜリアルな台詞を
書けないか」という命題に対し、
筆者は日本語における
「対話」と「会話」の違いをあげています。
そして元来日本語は
「対話」に不向きな言語であると
分析しています。

日本は他国から
文化の席巻を受けなかった。
そして狭い地域の中で
人間関係をいかに円滑に進めるか、
つまり「会話」が重要であった。
そのため「対話」は
日本社会にとって必要ではなかった。
それが筆者の分析です。
目から鱗です。

日本語はもともと
対話に不向きであるから、
現代人は「対話」が必要な
演劇の台詞を書くことに
苦労するのだそうです。
これも納得です。

そして筆者は演劇を
3つの「対話」と読み解いています。
①作品内での役柄どうしの対話
②演劇集団内での対話
③演じる側と観る側との対話

そうなのです。
演劇は「対話」なのです。
「対話」を積み重ねた末の芸術なのです。
中学生をはじめとする
若い人たちにとって、
演劇は新しいコミュニティを
形成する可能性を持った
表現方法なのです。
自分がこれまで
中学校の演劇指導において
漠然とイメージしていたことを、
明確に言葉で提示してもらったような
快さがありました。

「日本語」を深く知りたい中高生に、
演劇を始めたい中高生に、
そして教育に関係している
大人の方々に、お薦めしたい一冊です。
この本を読んで、
新しい「対話」の可能性を
広げてみませんか。

(2019.10.9)

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